2011年4月14日木曜日

奇跡の酒

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● サーチナニュース より



サーチナニュース 2011/04/14(木) 05:13  
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2011&d=0414&f=column_0414_001.shtml

大災害を被った石巻市の酒蔵で、
 自然の摂理に生かされた奇跡の酒

  大津波が襲い町の約半分が消滅するという大被害をこうむった宮城県石巻市。
 この地で文久元年(01861)創業の平孝酒造の人気ブランド「日高見」は、気品ある伸びやかな酒質で、地元はもとより東京の高級料亭や、寿司店などでも評判の酒だ。

  毎年4月上旬には、東京・入谷の酒問屋で全国の酒販店を対象に新酒の発表会を行なうのが恒例となっていた。
 震災の影響で今回は開催が直前まで危ぶまれたが、東北を元気付けたいとの平井孝浩蔵元の強い意志と、平井氏の無事な姿を見たいという酒販店からの強い要望で決行。
 4月6日、新酒発表会が酒販店、飲食店関係者を対象に行なわれた。
 会場では、利き酒の合間を縫って、震災後初めて東京を訪れた平井氏から、震災当時の生々しい様子と蔵の被害状況なども語られた。

  地震が起こった直後は、仙台の大手酒販店主と蔵の母屋におり、揺れが大きくなり窓ガラスなどが割れだしたので表に出ようと玄関の扉を開けようとしたが開かず、そのうち玄関の扉がはずれ外に向かって倒れたという。

  そして揺れがおさまったと思っていると、今度は町の防災サイレンが鳴り津波警報の発令が出たので、蔵人にも避難指示を出すとともに、客を連れて裏の高いマンションに急いで非難。
 このあと大津波が町を襲ったわけだが、蔵は幸い海をさえぎるような小高い丘の裏にあったので、両脇の地区は津波にさらわれたが、蔵は浮島のような状態で残り、膝が浸かる程度の浸水だったらしい。

  しかし津波が落ち着いても水があるため動けず、ようやく3日後に蔵を覗いてみると、冷蔵庫の破損で数百本の大吟醸が割れる、貯蔵タンクの損壊で新酒が流れ出ている、酒母のタンク5~6本がだめになっている、蔵のいたるところが傷んでいるなど、被害は甚大だった。
 さらに大きな揺れでモロミ(酒の元)がタンクからこぼれだしたのか、蔵の中全体が白い絨毯を敷いたようになっており、いたるところでシュワーという醗酵の音がして、平井氏にとってはそれが、モロミの悲鳴のように聞こえたという。
 しかも、蔵内には明日搾ろうと思っていたモロミを初め、モロミが詰まった大小16本の純米酒タンクがまだ残っていた。
 しかし、電気がストップしているため冷却することができず、その状態で手をこまねいたまま復旧するまで11日間ただ待つしかなかった。
 あとは腐るか、醗酵しすぎて商品にならなくなる恐れがあり、その間これで蔵は終わりかもしれないなどの不安が頭を何度もよぎったそうだ。

  そして、11日目にやっと電気が供給され冷却したあと、翌日搾った酒を利き酒して、平井さんは思わずその味の良さに目を見張ったというから驚きだ。
 考えられるのは厳しい寒さが醗酵を緩やかにしてくれて、ちょうどいい状態を保てたことだ。それはまさに奇跡に近いことらしい。

  平井さんは、思わず搾った酒に「ありがとう」と感謝の言葉が出たと語った。
 さらに興味深いのは、同じように仕込んだ酒だが、自然のなせる仕業か、糖時計で測ると、タンクによって+13(大辛口)から-12(大甘口)までの大きな幅があることだ。
 酒販店や飲食店関係者も利き酒しながら、それぞれの個性溢れる味わいの違いに、目を見張っていた。
 特に大辛口は寿司や魚介などに相性抜群で、+3や-1は酸も程よく効いて酒だけで味わってもいいし焼き魚などにも合う、大甘口は肉料理などにも合いそうだとの、みんなの意見だった。
 今後、この奇跡の酒は、大震災の復興酒として販売し、その売り上げの一部を被害者支援に回したいという。
 「すべてに感謝しながら今後もいい酒造りを目指します」
と語った平井さんの希望のまなざしは、日高見の気高い酒質をさらに煌かせるに違いない。
 この復興酒の今後の販売情報については、わかり次第お知らせします。
 皆さんも、この自然の摂理によって生かされた奇跡の酒をぜひ味わってみてください。

  ■ライター&利き酒師/田中宏幸
おいしい日本酒の伝道師となるべく、冷酒や搾りたてに始まり、錫ちろりの燗酒、さらには熟成酒・古酒などなど、毎晩毎晩五合の日本酒を、人生の使命として楽しんでいる利き酒師ライター。
著書『米作りからこだわる とっておきの名酒』(小学館)ほか。(情報提供:WEBサライ)






[◆ その後の話]


茨木新聞 2011年4月19日(火)
http://www.ibaraki-np.co.jp/news/news.php?f_jun=13031386652997

酒蔵守り出荷再開 「地酒を多くの人に」


● 震災からの復興へ向け酒蔵店頭で販売営業が始まった=
 大洗町磯浜町の月の井酒造店

 東日本大震災で被害を受けた県内の酒蔵が営業を再開し、復興へ向け一歩を踏み出している。
 関東最多の51の蔵が集まる“酒どころ”の本県でも酒造業界の被害は大きく、多くの蔵が被災。
 消費減少が懸念されるなか、各蔵では販売出荷を始め、
 「茨城の地酒を多くの人に飲んでほしい」
と呼び掛けている。

 「被災の損害額は大きく消費も厳しいが、何とか営業を再開できた。
 泣き言を言わず少しずつ頑張ってやっていくしかない」。
 大洗町磯浜町の老舗酒蔵、月の井酒造店の坂本敬子社長は語る。

 同蔵では先月11日の震災で、屋根や壁が損傷、販売店舗の酒商品の大半が割れた。
 町を襲った津波は蔵の寸前で引き、今冬仕込んだ酒のタンクが倒れなかったのは不幸中の幸いだった。

■手作業で乗り切る

 しかし、タンク内発酵させる「もろみ」過程で使う電気が停電で途絶え、温度管理のため杜氏(とうじ)や社員がタンクに氷を巻くなど手作業で乗り切った。
 この間、断水中の地域に井戸水を提供したり家族がボランティアで参加したりもした。
 坂本社長は自宅の損傷で震災以来、家族で蔵に泊まりきり。
 社員の努力で仕込みを無事終了し、杜氏は帰郷した。

 消費に与えた震災の爪痕は深く、過度な自粛ムードなども重なり、販売では苦戦を強いられている。
 坂本社長は
 「古くからのファンが応援を始めてくれた。地域で良い酒を造り続け、蔵を守りたい」
と前を見詰めた。

 県酒造組合や各蔵によると、震災で沿岸部や県央県北の蔵などで被害が大きく、建物や設備補修を中心に損害額も膨らむ見通しだ。

 さらに県内の蔵に重くのしかかるのが福島第一原発事故に伴う風評被害だ。
 ある蔵では
 「震災前に瓶詰めしたまったく安全な酒までが卸し・販売できないこともある」
と話し、流通業者や消費者に冷静な判断を訴える。

■「風評」に検査徹底
 
 風評対策として、複数の酒蔵が独自に、仕込みに使う井戸水の検査を実施。放射性物質が検出されないことを証明し、公表して安全性を高めている。

 総合酒類メーカーの明利酒類(水戸市)では水や清酒、焼酎などの検査を実施。
 「風評被害への対処や、顧客からの要望があればすぐに情報提供できるようにした」
と説明する。
 各蔵の輸出品では、海外から検査証明を求められることもあるといい、負担が増している。

 酒造組合は関東6県合同で、国税局に対し、震災前に瓶詰めした製品は検査除外できるよう強く求めるなど対策も進めている。





== 東日本大震災 == 



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